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札幌家庭裁判所滝川支部 昭和47年(家イ)53号 審判

申立人 遠山登志子

国籍 韓国 住所 北海道砂川市

相手方 金精昇

主文

相手方および亡張栄麗と申立人との間に父子関係および母子関係が存在しないことを確認する。

理由

一  申立の趣旨は主文と同旨、申立の実情は別紙のとおりであり、当事者間には昭和四七年七月一八日午後一時の本件調停期日において主文同旨の合意が成立し、かつ親子関係不存在の原因となる事実についても争いがない。そして本件記録中の各戸籍謄本、死亡届、死亡診断書の各謄本、山田茂一および山田まさに対する調査官の調査結果、相手方第一、二回および申立人各審問の結果によれば次の事実を認めることができる。

1  本籍宮城県栗原郡○○村字○○二七番地戸主遠山幹吉叔母まさは昭和一一年頃から本籍同郡○○町字○○○一七番地戸主山田芳蔵従兄茂一と内縁関係にあり、昭和一五年四月一五日上記○○村において申立人を分娩した。

当時すでに山田茂一と遠山まさとの間には満一歳の男児が生れており、申立人を抱えての生活は容易でなかつたところ、まさの縁戚に当る金子明を介して金山良助と称していた相手方およびその内妻張栄麗から申立人を貰い受けたいとの申入を受けたので、当時は相手方夫妻を韓国人とは知らず昭和一八年三月一二日頃申立人を同夫妻に引渡した。

2  相手方夫婦は、実父母が申立人の出生届を怠つていたので、申立人を相手方夫婦の嫡出子として昭和一九年二月二七日相手方夫婦の婚姻届と共に申立人の出生を届け出た。そのため、申立人は表見上は相手方夫婦の長女として入籍している。

しかし、申立人はもの心つくにつれ、いつしか自分が貰われてきた子であるとの噂を耳にするようになり、一八歳か一九歳の頃に張栄麗と口論したとき同女の口からこの事実を明確に知らされた。申立人の実父母を知りたい思いは消えず、昭和四五年に相手方から実父母の氏名と当時の住所等を聞き出し、昭和四六年五月には宮城県栗原郡○○まで出向いて、ついに実父母と対面することが出来た。

3  申立人の実父母は昭和一九年一一月二五日夫の氏を称する婚姻をし、宮城県栗原郡○○町字○○○一七番地に本籍を有している。

なお、育ての母である張栄麗は昭和四三年四月二二日死亡した。

二  本件において申立人が存否の確認を求めている親子関係は、自然的血縁の親子関係すなわち養親子関係を除いた嫡出または非嫡出の親子関係と解されるところ、このような親子関係は法律関係の一態様にほかならないから、法例一七条、一八条の趣旨を類推して、当事者双方の本国法に準拠して判断すべきものと考える。

相手方は韓国籍を有する者であることは明らかであり、申立人は表見上その嫡出子と戸籍に記載されているから、表見上は申立人も韓国人のようにみられないではない。しかし、法例二七条にいう国籍とは表見上のものではなく、真実の国籍を指すものと解すべきであり、申立人の出生届出当時朝鮮に施行されていた旧日本民法および現行の韓国民法・戸籍法によつても、申立人に関する出生届出によつて申立人が韓国籍を取得することはありえないこと後述のとおりであるから、申立人は旧国籍法三条によつて出生と共に実母の国籍すなわち日本国籍を取得し、現在も日本人と認められる。

1に認定した事実によれば、相手方夫妻と申立人との間に自然的血縁が存在しないことは明白である。このような場合には韓国、日本の新旧いずれの親族法によつても、相手方夫妻と申立人との間に嫡出親子関係は発生せず、相手方のなした嫡出子出生届によつて認知の効力を生ずる余地もないから、非嫡出親子関係が成立することもない。

そして、親子関係不存在確認の手続は法廷地法である日本の家事審判法二三条によりうることは勿論であるから、本件当事者間の合意は適法かつ正当である。

よつて調停委員白水務、同今村ハルの意見を聴いたうえ、主文のとおり審判する。

(家事審判官 山本和敏)

別紙〈省略〉

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